「うつの薬は飲んだら一生やめられないのでは?」
「薬の副作用が怖い」
「気持ちの問題だから、薬を飲まなくても治るはず」
初めて薬を飲む人は抵抗感を示し、このように漠然と悩む人は多いでしょう。
この記事では、精神科病院で薬剤師をしている筆者が以下の内容を解説していきます。
- 薬を飲みたくない理由・飲むべき理由
- 飲まなかった際の症例紹介
- 薬を継続する上での心がまえ
薬を飲まないと症状の悪化や再発リスクが高くなるため、医師から言われた薬はしっかり飲むべきです。
薬を飲み始めた人や、自己判断で薬を飲むのをやめたいと思っている人は、ぜひ最後まで読んでみてください。
うつの薬はどんな効果がある?
うつ症状は以下の2つの脳内物質が不足しておこると言われています。
- ノルアドレナリン:覚醒、意欲、集中力などに関与
- セロトニン:安心感、リラックス、食欲などに関与
薬はノルアドレナリンやセロトニンを補い、症状を改善する働きがあります。
うつの薬を飲みたくない理由4つ
筆者が患者さんからよく聞く、うつの薬を飲みたくない理由を4つ挙げます。
- 依存性があると思っている
- 副作用がひどい
- 自然に治ると思っている
- 完治したと誤解している
それぞれ詳しく見ていきましょう。
依存性があると誤解している
薬を正しく飲めば依存性や習慣性はありません。
うつ状態はノルアドレナリンやセロトニンが不足しており、不足分を薬で補充するだけなので、正しく飲めば依存したりくせになったりはしません。薬によっては徐々に量を増やしていくケースがあり不安に思う人もいますが、医師や薬剤師の説明をしっかり聞いて飲めば、依存の心配はありません。
「飲み始めたら止められないのでは?」と思うのは誤解で、いずれ症状がよくなれば徐々に薬の量を減らし飲むのを止めるのも可能でしょう。
副作用がひどいと思っている
副作用は薬の飲み始めに現れがちですが、徐々に体が慣れていきます。
特に顕著な副作用は、以下の2つです。
- 胃のむかつきや食欲不振
- 眠気
副作用は2週間も経てば落ち着くケースがほとんどですが、程度がひどい人もいるので、その際は医師や薬剤師に相談しましょう。
自然に治ると思っている
うつ症状は放っておいても自然に治るとは限りません。
比較的症状が軽度であれば自然に元気になっていく可能性はありますが、放置してしまうと症状悪化につながるリスクはあります。また、症状が軽いうちに病院へ行きしっかり薬を飲んで治してしまったほうが、のちに再発する可能性も低くなります。
完治したと誤解している
うつ症状が完治するのは、数ヶ月から場合によっては何年かかかります。
しかし、患者さんの中には自己判断ですでに完治したと誤認しているケースは多いです。
患者さんが「症状が治った」と誤解する理由は、薬を飲んだおかげで一時的に症状がよくなるからです。一般的に2〜4週間経てば効果を実感できますが、そのあとも一定期間継続しないと脳内のノルアドレナリンやセロトニンのバランスが整わず、完治したとは言えないのです。
薬を飲みたくない理由は人によって様々です。
しかし、うつ症状や薬に対して誤解をしているケースは多いため、正しい知識を入れておきましょう。
うつの薬を飲みたくない状況から脱却すべき理由3つ
薬を飲むべき理由を3つ解説しています。
- 悪化・再発を防ぐため
- 離脱症状を防ぐため
- 他の精神疾患の誘発を防ぐため
記事内で一番重要なポイントなので、しっかり解説していきます。
悪化・再発を防ぐため
うつ症状が落ち着いているのは薬を飲んでいるからです。
以下の論文でも報告があるとおり、治療をやめてしまうと症状の悪化や再発のリスクが高まります。
ある研究によると、退院後の再発率は下記のごとくである。
6ヶ月以内 25%
2年以内 30-50%
5年以内 50-70%
かなり再発があると言えよう。それ故、再発予防のための治療が重要である。治療開始当初は症状が治るまで薬を増量していくが、一旦安定したら1,2ヶ月間同じ量を続けて本人も自信がつけば少しずつ減量していく。軽症でも3-6ヶ月間は服薬を続けるのが再発しないためには望ましい。
【引用】義村 勝 「技術者のためのメンタルヘルス対策ー特にうつ病について
再発や悪化を防ぐため、医師の指示どおりしっかり治療を継続しましょう。
離脱症状を防ぐため
離脱症状とは、継続している薬をいきなりやめた際、体に現れる諸症状をさします。
具体的な症状は以下の通りです。
- 精神症状:イライラ感、不安感、焦りなど
- 身体症状:頭痛、めまい、震えなど
もともとの薬の量が多く薬を中断するまでの期間が短いほど、離脱症状は生じやすい傾向にあります。
ひどい場合は、希死念慮(死にたい、消えたい、生きるのに疲れたなどの気持ち)を生じる可能性もありるため、薬は医師指示のもとでゆっくり減らしていくのが基本です。
他の精神疾患を誘発するため
薬を自己判断で勝手に止めると、ノルアドレナリンやセロトニンなどの脳内伝達物質のバランスが崩れ、以下の病気を併発してしまう可能性があります。
- 統合失調症
- てんかん
- アルツハイマー
ノルアドレナリンやセロトニンなどが複雑に関与してうつ症状をきたしますが、他の精神疾患も同様です。実際、筆者がみてきた患者さんでもうつ病の治療中でも別の精神疾患を発症してしまうケースが多くありました。
薬の自己中断によりうつ症状悪化だけでなく、他の病気を誘発してしまっては本末転倒です。
【症例】うつの薬を飲みたくない人はどうなる?
薬を自己中断した結果どうなったか、筆者が実際に見てきた症例を2つ紹介します。
case1:入院を余儀なくされた症例
30代女性。会社員の方です。
職場の人間関係にストレスを感じ「食欲がない」「些細なことでもイライラする」などと訴え病院受診し、うつ病との診断を受けた。最初の3ヶ月はしっかり通院し薬も飲んでいたが、仕事が忙しくなり受診が滞りはじめる。手持ちの薬もなくなり、結果的に通院と薬の自己中断になってしまう。
その後、職場内の異動でさらにストレスがかかり「疲れすぎているのに眠れない」「毎日仕事にいくのがとても辛い」などの症状をきたし、半年ぶりに病院を受診。再度、通院と薬をスタートさせるも、多忙や症状悪化による気力・意欲低下のため、また通院や薬を飲むことが滞り始める。
最終的に「もう世の中どうでもいい」「自分なんていなくなってしまえばいいのに」と訴え同居する家族と一緒に病院受診し、そのまま当日入院となった。
約1年間で症状が悪化し、最終的に入院となってしまった症例です。
途中で通院や薬の自己中断をしてしまうケースは非常に多いですが、最悪入院になる可能性があるのでしっかり継続しましょう。
case2:離脱症状が起きてしまった症例
20代男性。学生の方です。
大学の勉強や人間関係で悩み「朝起きれない」「何をしても心から楽しめない」などと訴え病院受診し、うつ病と診断を受けた。最初の3ヶ月はしっかり通院しながら薬を飲み続けていた。しかし「しばらく薬を飲んで状態も落ち着いたし、もう飲まなくても大丈夫だろう」と薬の自己中断をする。
薬を中断して3日後にイライラ感、強い不安感、発汗などが現れ「うつが再発したのではないか」と焦り、再び病院受診。結果的に、離脱症状が起きてしまっている旨を医師から説明され、再び薬を飲むことをスタートさせた。
いきなり薬を中断すると離脱症状が起きてしまう可能性があります。
状態がよくなっても自己判断で中止するのは避けましょう。
飲みたくないうつの薬を継続する2つのポイント
しっかり薬を継続しようと思う考え方のポイントを2つ紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
治療は長期スパンで考える
うつ状態を改善をするには時間がかかると、腹を括りましょう。
今の状態に一喜一憂するのではなく、症状が完治するまでには少なくとも数ヶ月以上はかかることを覚えておいてください。
状態が改善していく流れは以下の通りです。
うつの段階 | 状態 | 発症からの目安期間 |
急性期 | もっとも症状が重い | 発症から3ヶ月程度 |
回復期 | 良し悪しに波がある | 発症から4〜9ヶ月程度 |
維持期 | 比較的落ち着いている | 発症から1年〜数年 |
特に注意すべきは、回復期と維持期です。
回復期は日によって体調の良し悪しに差が出るため、体調が良い時期に「もう治った」と勘違いし薬を飲むのを怠る可能性があります。また、維持期は長期にわたり薬を飲みつづけているため「めんどくさいからもう良いか」と怠惰な気持ちが生じやすく、薬を飲まなくなる可能性があり注意が必要です。
今の状態に一喜一憂せずしっかり薬を継続し、焦らず治療していきましょう。
周囲のサポートを得る
自分一人で悩まず家族やパートナーなど周りの人の助けを借りましょう。
気分が落ち込んでいる時は、薬を飲むのさえも億劫に感じるケースはあると思います。しかし、周囲の人から「今日は薬を飲んだ?」「食事のあと忘れないようにね」などの声かけはとても励みになるものです。
そして、万が一薬が合わず副作用が現れてしまった時は、周囲に相談できる人がいればパニックにならずにすむでしょう。
治療をしていく上で大切なのは、自分だけで抱え込まずに周りの人にも甘えることです。
うつの薬を飲みたくないと思ったら医師や薬剤師に相談しよう
薬を途中で飲むのをやめてもいいと思っている人は多いですが、自己判断で勝手に中断してはいけません。
本記事では以下の内容を解説してきました。
- 薬を飲みたくない理由・飲むべき理由
- 飲まなかった際の症例紹介
- 薬を継続する上での心がまえ
ぜひ、薬を継続する必要性をしっかり理解し「薬を飲みたくない」と思ったときは、自己中断する前に医師や薬剤師に相談しましょう。